入間でひとと会う
もともと今のお店には創業者の前オーナーがいらっしゃいました。その方が「コイガクボ」を始められた18~9年前は、米粉パンというものがほとんど浸透していない時代で、作り方も分からない中で奮闘されていました。その頃の私はというと、前職は広告代理店の社員として、物売りのお手伝い、コンサル的なお仕事をしていまして、このお店も、もともとは私がコンサルティングでお手伝いさせていただいていた中の一軒でした。そんな中、オーナー様が米粉パンの事業を辞められる事になり、私が料理好きということもあったので、お店を譲り受けることとなり、お店をリスタートしました。
とはいえ、当時の私はパン作りに関してはほとんど素人。最初の1~2年はまさに悪戦苦闘の日々でした。妻と二人で朝も昼も夜も分からないぐらい、ほとんど寝ずに悩みながらパン作りに没頭。ちょうど3年経った頃に、パンの技術はもちろん、米粉特有のクセや特性などを、身体で分かったというか、まさに身に付く感じで掴むことが出来ました。
パン屋を始めてから、自分が人よりも料理が大好きだったことがよくわかったんです。会社員の頃には忘れていたのですが、小さいころにお年玉でホームベーカリーを買ったことや、小学校から帰ってきてはチャーハンを作っていたこともあったなと、急に記憶が蘇ったりもしました。独立してからは苦労の連続でしたが、会社員時代には感じられなかった幸せも多く、まさに天職ともいえる仕事に就けたと思っています。
パン作りについて語る内山さん。楽しそうな様子が伝わってきました。
店内の様子。入った瞬間から、おいしそうな米粉パンの香りが出迎えてくれます。
私がお店を引き継いでからは、パンの種類やレシピ、お米の産地等もがらりと変えました。パンによって新潟・熊本・佐渡島・淡路島など、様々な産地の米粉を使っていますが、現在メインで使っているのは熊本製粉さんという会社の米粉です。日本の製粉会社の中でも米粉の研究と製粉技術に長けていて、私が理想とする米粉パンに一番向いた製粉技術を持っている会社です。
私が目指している米粉パンは「しっとり、もっちり」食感のパン。私がお店を始めた当時の米粉パンといえば、とにかくモッチリ食感のお餅みたいなパンでしたので、パン好きな方からは「これはパンじゃないよ」と言われるようなパンでした。そこで、多くの人に親しまれている小麦パンを基本に考え、もっと食感を良くしたパンが米粉で出来るのでは?との思いから研究開発を続け、今の食感の「コイガクボ」のパンに生まれ変わりました。「しっとり、もっちり」といっても、行き過ぎてはいけません。食べ飽きてしまったり、食べ疲れしてしまうことのない、違和感のない「しっとり、もっちり」を目指しています。やはり究極の食感というのは、毎日食べても食べ飽きない食感ではないでしょうか。そこに近づけるように、レシピや焼き方、発酵のタイミングなど、いまだに考え続け、進化させています。
淡路島産の米粉。産地によっても違いがあるそうです。
毎日食べても飽きない、一番人気の「しっとり、もっちり」米粉食パン。
米粉パンの職人とういのはいまだに多くないので、今では色んなパン屋の職人さんに米粉パンについて指導に行ったり、地方のお米の生産者様からの「地元のお米でパンが出来ないか?」といった問い合わせにお応えしたりもしています。とはいえ、今の自分が米粉パンの職人だとは思っていないんです。「職人」というものを目指すと、焦りが出てしまうというか、自分がまだ「職人」には値しないのではというストレスを自分で作ってしまうので、今45歳なのですが、パン屋を始めた当時から、60歳ぐらいまでには自分の思う形で「職人」になれれば良いかなという長い目で見て考えていました。そういう意識でいると、今の仕事を凄く楽しみながら、お客様のご意見もしっかりと受け入れることができるのです。まだまだ修業中だという意識でやっていると、どんどんパンも進化できますし、時代に合わせた商品も、もっと作ることができるのではないでしょうか。そんな感じなので、とにかくパン作りは楽しいですね。
コイガクボの通常の米粉パンは、飽きの来ない「しっとり、もっちり」食感を生み出すために、小麦のグルテンも使用しています。パンにはイースト菌による「発酵」が必要ですが、米粉だけだと「発酵」によって発生したガスが焼く際に抜けてしまうのです。小麦グルテンは風船のゴムのような役割を持っているので、そのガスを取りこぼすことが無く、焼いた際に綺麗にパンが膨らんでくれます。色々な企業が、小麦グルテンにかわって同じ役割を果たすものを開発しているのですが、まだ100%といえるものはありません。
コイガクボでも小麦アレルギーの方向けに、100%米粉だけを使った「グルテンフリー」の米粉パンを作っていますが、そのパンには、小麦グルテンの代わりに「グルコマンナン」というこんにゃく粉を使って「ふんわり感」を出しています。グルテンフリーのパンは全国からご注文いただいて発送していますが、瞬間冷凍したものを店頭販売もしております。他にも、発酵の必要がない焼き菓子は「グルテンフリー」で米粉100%の商品です。ドーナツやシフォンケーキ、チーズケーキ、ガトーショコラ、カヌレ等、あらゆる世界の焼き菓子を米粉で表現しています。
わざわざパン屋にパンを買いに来て頂くというのは、スーパーやコンビニでパンを買うのとは違う演出が重要だと私は考えています。お店に入っていただいた時に、私はパン屋さんに来たんだと感じていただけるようなサービス、そこでお買い物を楽しんでいただく演出が、どうしても必要なのです。量販店様でパンを買うのは、沢山の買い物の中の一つとしてパンを選ぶだけの簡素化されたものですが、パン屋に来てパンを選ぶということは一つのエンターテインメントだということを、このお店で提案しています。
私がこのお店を引き継ぐことを決めた理由の一つは、ジョンソンタウンにあるからでした。ジョンソンタウンという場所は、お店を出た後も非日常を演出できるエリアなんです。休日のジョンソンタウンでは、大人の方でも食べ歩きをされている方が見受けられます。食べながら歩くという事は普通の場所だとなかなかできないことですが、ジョンソンタウンはエンターテインメント性のある場所だからこそ、食べ歩きたいと思えるのではないでしょうか。
豊富な種類のパンが陳列されています。どれにしようか迷ってしまうのも、パン屋の醍醐味ですね。
アメリカンな雰囲気が漂うジョンソンタウン。コイガクボはジョンソンタウン入り口付近にあります。
近くに富士見公園や彩の森入間公園といった大きな公園があるためか、土日は特にお子様連れのお客様が多く、家族全員でご来店いただき、僕はコレ私はコレといって選んでいただけるのは本当に嬉しいですね。私どもは特に小さなお子様が好きなので、出来立ての色々なパンをわんぱくに指さしながら、キラキラした目で選んでいる姿をみていると、もっと楽しんでもらいたいと張り合いもでてきます。なかでも、赤ちゃんがいらっしゃるお母さま方は、私どもとしては一番来ていただきたいお客様の一人です。四六時中赤ちゃんのお世話に追われるお母さま方に、お外のリラックスできる空間で、赤ちゃんと一緒に美味しいパンを食べていただくことができたら、少しでも気がまぎれるのかなと思っています。小麦のパンに比べ、米粉パンは消化にも良いようで、離乳食に使って頂くこともあるようです。売り場もベビーカーを押しながら選んでいただけるスペースを全店舗でつくり、トイレにはおむつ替えの台も完備。イートインの奥にはキッズルームやハンモックもあるので、お子様たちが遊ばれている横で、お父さんお母さんが会話をしながら食事を楽しんでいただいたりしています。
広々としたイートインスペース。周りとの距離も充分に保てます。
子どもたちが楽しく遊べるように工夫されたキッズスペース。
私のイメージとしては、自宅のリビングをもう少し拡張したような空間を作れたら、という思いでお店を作り上げてきました。どうしても別世界になりすぎると、少し緊張感をあたえてしまいます。リビングに似た雰囲気のなか、リラックスしてお子様たちのケアもしながらお食事をしてもらいたいというイメージで、まだまだ進化させていきたいです。イートインスペースにグランドピアノを置いたのも、更なるエンターテインメント性や遊びを取り入れたいと思ったからです。30分300円でお貸出しもしておりまして、この場所で出張のピアノ教室が行われたり、ピアノ発表会の前の度胸試しのために人前で練習したいといった方もいらっしゃいます。私自身も猛練習中なので、曜日によっては私が先生に教えてもらいながらピアノを弾いている光景を見ながら、パンを選んでいただくこともあるかしれません(笑)
あまり見かけることのない、きれいな白のグランドピアノです。
昼食もかねて米粉パンを実食。菓子パン、惣菜パン共にとても美味しかったです。
ジェラート、広い意味でのアイスクリームって、色んなものを食べた一日でも、最後にアイスクリームを食べると、全てがエンターテインメントでまとまるというか、そんな不思議な力を持っていると思うんです。特にお子様たちは、最後にアイスクリームが出てくると、やったー!という感じになりますよね。今日一日が楽しかったなとまとめてくれるような力を持っているんじゃないでしょうか。パンにもそういう力が無くもないと思うのですが、アイスクリームはパワーが違います。私がお客様を見ていて発見したのですが、パンを選ばれる時とジェラートを選ばれる時の顔つきが違うんです。ジェラートを選ばれる時はパンよりも更にリラックスした表情になっています。もちろん、お子様はエネルギーを全開にして選ばれていますが、大人の方、ご年配のご夫婦などでも、少しリラックスした雰囲気が見受けられます。お店のエンターテインメント性やリラックスした雰囲気を高める意味もあり、ジェラートの工房を作りました。
まだ埼玉やこの近隣エリアでは、本格的な手作りアイスクリームというのが見当たらなかったので、だったら私が世界一美味しいアイスクリームを作って、この地域の方にビックリしてもらいたい、喜んでもらいたいという思いも強かったです。アイスクリームの歴史の本を読み解くと、アイスクリームの歴史が深い場所で勉強した方が良いという事に気付いたので、単身イタリアに修業に行きました。イタリアではジェラート屋で働きながら、アイスクリーム作りを学べる「ジェラート大学」に通うことに。その大学は、お店のお師匠様も通った学校で、実技というよりは主に学科を学びました。実はアイスクリーム作りは化学の勉強なんです。マイナス何度でこの食感を出すには、砂糖の種類や量、牛乳の油脂、食物の繊維など、そういった素材を自分で分析し、計算する必要があります。素材ごとに全部計算式があるので、自分なりにそういった計算式=レシピを作れるようになるには、専門の大学に行くのが一番良かったのです。そこで学んだお陰で、私もありとあらゆるものをアイスクリームにできるようになりました。果物でも野菜でも全てアイスにできますし、レシピの難しいお酒でも、シャンパン、ビール、焼酎など、何でも可能です。今だと、基本のミルクや地元の名産「狭山茶」、いちごやキウイ等の果物、黒蜜きなこや桜といった和の素材、オリーブオイル等の変わり種まで、12種類のジェラートをご用意しています。
クリーミーな舌触りにすっきりとした後味のジェラートです。
左上から「オリーブオイル」「フィオルデラテ」「キウイミルク」「いちご」
会社員時代は千葉に住んでいたのですが、入間に引っ越してきて、パッと街を見た感じではそれほど変わりはなかったものの、住めば住むほど家族で住むには良い場所だなと感じるようになりました。特に広い公園が多いというのは、入間やその周辺エリアでは凄くポイントが高いと思いますね。私が育った地域では、公園といっても走って3秒ぐらいで反対側についてしまうぐらいの狭い公園しかありませんでしたが、このエリアには、子供たちだけじゃなく、家族みんなで一日遊べるような広さの公園が平然とあるのが衝撃的でした。多分、こちらのエリアで生まれ育った方には当たり前のことだと思っている方が多いと思うのですが、そうじゃない地域に私は住んでいたので凄くびっくりしました。そして、なんといっても災害に強い場所だなということにも驚きました。地震や台風、ゲリラ豪雨といった異常気象などにも非常に強い場所じゃないかなと、実際住んでいて感じています。
私は海が好きで、昔からよくサーフィンに行くのですが、災害にも強い内陸の海無し県なのに、以前よりも海へのアクセスはとても便利ですね。圏央道の入間ICが近いので、湘南や茨城の大洗などにも出やすく、天候によってどちら方面に行くか選ぶことも出来ます。千葉にいた頃は、東京を抜けるのが大変だったので、波が良い日でもなかなか湘南には行けませんでした。ここからなら、ドアを出て湘南でウェットスーツを着るまでが最短で55分。道もほとんど混みませんし、本当に便利です。お店にサーフボードを置いているので、サーフィン好きなお客様に声をかけていただく事もよくありますよ。他にもこの辺りのお客様は、週末には関越道を使って新潟や軽井沢方面に行かれる方も多いようです。
仕事で都内へ行くこともあるので、電車での移動もあるのですが、入間市駅は特急も急行も全て停まるので、アクセスは早くて便利ですね。今は小手指と保谷に支店を出しているのですが、西武池袋線沿線の街は親近感のある雰囲気が好きなので、沿線でお店を増やしていきたいという思いもあるぐらいです。
コロナ禍の影響なのかもしれませんが、我々大人も、どうやったら自分の時間を有効に使えるか考えたり、工夫し始めた人も多いですよね。都内だと趣味嗜好にお金を使う余裕を作れない人でも、このあたりなら居住費や生活費も抑えられますし、充分はしゃげる場所なのかなと思います。
私もすっかりここがベースになりました。この入間店が本店というのはこれからも変わりません。ここがもっと遊べるパン屋に進化していくことで、他の店舗にも良い影響を与えていければと考えています。
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